日本人として初めて国際刑事裁判所(ICC)所長を務める赤根智子氏が、2026年8月18日、米国政府から制裁対象に指定された。在米資産の凍結と米国への渡航禁止という異例の措置で、背景にあるのはICCによるイスラエル首脳への逮捕状発付や米兵の戦争犯罪捜査をめぐる、トランプ政権とICCの対立だ。何が起き、今後どうなりうるのか整理する。
赤根智子氏とはどんな人物か
赤根氏は1982年に検事任官後、約30年にわたり日本の検察官として勤務してきた生え抜きの検察官だ。2018年にICC判事に就任し、2024年3月11日には日本人として初めてICC所長に選出された。詳しい経歴や人物像は別記事「ICC赤根智子所長とは何者か?検事から所長への道のり」で整理しているので、あわせて参照してほしい。
何が起きたのか
米財務省は2026年8月18日、赤根所長とセネガル出身の上級法廷弁護士アブドゥライェ・セエ氏を制裁対象に追加すると発表した。制裁は2025年2月にトランプ大統領が署名した大統領令にもとづくもので、在米資産の凍結とともに、9月17日以降は米国内の主体が両氏と取引すること自体が禁じられる。
ルビオ国務長官は声明で、両氏が「管轄権を認めていない政府の当局者を捜査、逮捕、拘束または訴追する取り組みに直接関与した」と非難した。さらに「国家主権への攻撃を容認しない」としたうえで、「必要があればICCを解体する用意がある」とまで踏み込んだ。
これに対しICCは声明で「司法関係者が法を適用したことで脅かされれば、国際的な法秩序そのものが危険にさらされる」と反発し、職員と被害者支援の活動は継続すると表明した。赤根所長自身もNHKの取材に「ICCの存続を確保するために力を貸してほしい」と述べ、「法の支配の終えんの始まりとさせない」というメッセージを発信している。
なぜここまで対立が深まったのか
対立の起点は2024年、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相や当時の国防相に逮捕状を出したことにさかのぼる。米国はICCの管轄権を認めておらず、同盟国であるイスラエルの首脳への逮捕状発付に強く反発した。加えてICCは米兵による戦争犯罪の可能性も捜査対象としており、米国はこれも自国の主権侵害だとみなしている。
トランプ政権は2025年2月の大統領令を皮切りに制裁を段階的に拡大してきた。同年中に判事・検察官・次席検察官を含む9人のICC職員が制裁対象となり、当時の主任検察官カリム・カーン氏も対象に含まれていた(カーン氏は別途、性的不品行疑惑での休職を経て2026年7月に解任されている)。今回の赤根所長への制裁は、ICCのトップである所長本人に対象を広げた点で、これまでより一段踏み込んだ措置といえる。
この先どう影響しうるか
まず注目すべきは、赤根所長が日本に協力を求めている点だ。所長は2026年7月にも日本に対しICC支持の姿勢を強めるよう働きかけており、米国の圧力でアジアの加盟国が脱退に傾くことへの警戒感をにじませていた。日本はICC設立以来の主要な資金拠出国であり、日本人所長が制裁対象になったことで、日本政府がどう反応するかは今後のICCの資金・体制の安定性に直結する可能性がある。
もう一つの論点は、米国の制裁がICCの実務にどこまで支障をきたすかだ。所長や検察官が米国内の資産を凍結され渡航もできなくなれば、国連本部があるニューヨークでの活動や米系金融機関を介した資金のやり取りに制約が生じうる。人権団体は既にこの種の制裁の無効化を求めて提訴しており、法廷闘争を通じて制裁の効力自体が争われる展開も考えられる。
さらに長期的には、ICCに対する制裁が常態化することで、他の加盟国が「制裁対象になりうる」ことを理由に捜査への協力を渋る萎縮効果が生じるおそれもある。逆に、ICCを支持する国々が結束を強め、資金・政治両面での支援を厚くする方向に動く可能性もあり、どちらに転ぶかは今後の各国の対応次第だろう。なお本稿の分析は2026年8月26日時点の情報にもとづくもので、状況は今後の展開次第で変わりうる。
よくある質問
Q. 赤根智子氏はどんな経歴の人物か?
A. 日本の検察官出身で、1982年に検事任官後、各地の検察庁や最高検検事を歴任した。2018年にICC判事に就任し、2024年3月に日本人として初のICC所長となった。
Q. なぜ米国はICC所長を制裁したのか?
A. ICCがイスラエル首脳への逮捕状発付や米兵の戦争犯罪捜査に関与したことについて、米国が自国および同盟国の主権への攻撃だと主張しているためだ。
Q. 制裁によって何ができなくなるのか?
A. 発表によれば、在米資産が凍結され、米国への渡航が禁止される。加えて2026年9月17日以降は、米国内の主体が本人と取引すること自体が禁じられる。
参考・出典
- ICCの赤根所長に制裁 「国家主権への攻撃容認せず」―米:時事ドットコム
- 米国がICC赤根智子所長を制裁対象に追加 | Human Rights Watch
- 赤根智子 – Wikipedia
- ICC赤根所長「存続確保に力を」と日本への期待示す | NHKニュース
- US sanctions International Criminal Court president and trial lawyer | Al Jazeera


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