特別養護老人ホームに親を預けている家庭に、8月から届く請求書。そこに書かれた食費が、これまでより1日60円、月にすると2000円弱高くなっている——そんな変化が、2026年8月1日から全国の介護保険施設で起きている。値上げの理由も対象者も知らないまま「なぜ急に」と戸惑う人が出ている一方、対象にならない家庭も多い。何がどう変わったのか、数字で確認しておきたい。
介護保険の「補足給付」とは何か
特別養護老人ホームや介護老人保健施設、ショートステイなどに入所すると、介護サービス費とは別に食費・居住費が実費でかかる。所得が低い世帯には、この食費・居住費の自己負担に上限を設けて超過分を介護保険が肩代わりする仕組みがあり、これを「補足給付(特定入所者介護サービス費)」と呼ぶ。
この上限額そのものが「負担限度額」だ。2026年8月1日から、この負担限度額と、算定のもとになる「基準費用額」が見直された。
対象になるのは低所得層のうち「第3段階」の人
補足給付の対象者は所得に応じて第1段階から第3段階(①・②)に区分されている。今回の見直しで負担増になるのは、このうち比較的所得がある「第3段階①・②」の入所者だ。住民税非課税世帯で、年金収入等が一定額を超える層が該当する。生活保護受給者を含む第1・第2段階の負担限度額は据え置かれた。
いくら上がるのか、内訳を確認する
引き上げ額は段階によって異なる。
- 第3段階①: 食費が1日30円増(月あたり1000円弱)、居住費は据え置き
- 第3段階②: 食費が1日60円増(月あたり2000円弱)、居住費が1日100円増(月あたり3000円程度)
あわせて、食費の算定基準となる「基準費用額」も日額1,445円から1,545円へ100円引き上げられた。基準費用額は施設で提供される食事の標準的なコストを示す数値で、これが上がった分、保険からの給付額(施設への支払い)も増える仕組みになっている。つまり入所者の負担増は基準費用額の上昇分そのものではなく、その一部にとどまる。
なぜこのタイミングで引き上げられたのか
厚生労働省は、令和7年12月に社会保障審議会・介護保険部会がまとめた意見書を踏まえた措置と説明している。狙いは「制度の持続可能性を確保しつつ、負担能力に応じたより公平な仕組みへ精緻化する」こと。介護保険財政は高齢化に伴う給付費の増加が続いており、所得に応じたきめ細かい負担調整で制度を維持する方向性は、医療分野の高額療養費制度の見直しとも通じるところがある。
「第2段階」の所得基準額も同時に見直し
今回はあわせて、第2段階の所得基準額が80.9万円から82.65万円に引き上げられる。第2段階は第3段階よりも軽い負担で済む区分のため、この見直しにより、これまで第3段階だった人の一部が第2段階に区分され直し、結果的に負担が軽くなるケースも出てくる。値上げだけでなく、対象者の線引き自体が動いている点は見落とされがちだ。
手続きは自分でする必要があるのか
負担限度額の認定は市区町村への申請に基づく「負担限度額認定証」で運用されており、有効期間は通常7月31日までとなっている。8月からの新しい負担限度額に対応した認定証は、更新申請済みの人には順次交付される流れだ。厚生労働省はあわせて認定証の様式も見直しており、多床室(相部屋)の区分がより細分化される。現在補足給付を受けている家庭は、更新の案内が来ているか、届いた認定証の金額が変わっているかを確認しておくと安心だ。不明な点は、入所先の施設や自治体の介護保険担当窓口に確認するのが確実だろう。
押さえておきたいポイント
- 2026年8月1日から、介護保険施設の食費・居住費の負担限度額が引き上げられた
- 対象は補足給付を受けている「第3段階①・②」の入所者のみで、第1・第2段階は据え置き
- 引き上げ額は第3段階①が食費1日30円増、第3段階②が食費1日60円・居住費1日100円増
- 食費算定の基準費用額も日額1,445円から1,545円に変更された
- 第2段階の所得基準額も80.9万円から82.65万円に見直され、対象区分が動く人もいる
- 該当するかどうか・実際の金額は、届く認定証や施設・自治体への確認が確実
独自の視点|基準費用額100円増に対し利用者負担は30〜60円、差額はどこが引き受けているか
二つの数字を突き合わせると、今回の見直しの設計が読み取れる。食費の算定基準となる基準費用額は日額1,445円から1,545円へ100円上がった。これに対し負担限度額の引き上げは、第3段階①で食費1日30円、第3段階②で食費1日60円にとどまる。差額は保険給付、つまり制度側からの支払いが吸収する形になると考えられる。ここから見えるのは、施設が受け取る食費相当額は物価に合わせて引き上げつつ、低所得層の自己負担の増え方は抑えるという配分の考え方だ。制度の是非ではなく、上がった分が施設・保険財政・入所者の三者にどう割り振られたかという設計上の事実として押さえておきたい。
独自の視点|同じ「値上げ」の月に、負担が下がる世帯も混在する
今回は負担限度額だけでなく、区分の線引き自体も動いている。第2段階の所得基準額が80.9万円から82.65万円へ引き上げられたため、これまで第3段階だった人の一部が第2段階に移り、結果として負担が軽くなるケースが生じうる。つまり同じ2026年8月に、負担が増える世帯と減る世帯が同時に発生することになる。さらに認定証の有効期間が通常7月31日までで、更新時期が重なる点も見落としやすい。請求額の増減だけを見ても、値上げによるものか区分変更によるものかは判別しにくいのではないかと考えられる。認定証の区分表記と金額を前年分と並べて確認するのが実務的だろう。実際の該当関係は施設や自治体の窓口で確認したい。
参考・出典
- 令和8年8月からの介護保険施設等における居住費の負担限度額について(秋田県)
- 介護保険施設等における食費・居住費の負担限度額改定について(厚生労働省)
- 介護施設の食費・居住費、8月から引き上げへ(介護ニュースJoint)
- 2026年8月から補足給付の負担限度額・基準費用額が引き上げへ(全国有料老人ホーム協会)
- 介護施設の食費・居住費が2026年8月から値上げ(補助金ポータル)


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